6Jun
以前に来てくださった20代のお客さんですが、とてもつらい失恋をして、それが理由で性感マッサージを受けてくださった方がいました。
1時間くらい彼女の失恋話を聞いていて、まあ僕も切なくなってきたのですが、でもむしろ、ショックで立ち直れないほどの恋をしてみたいとも思いましたね。
しかし、僕のように、すっかり干からびてしまった心には、もう無理なことかもしれませんけれども。
その彼女の失恋話を聞きながら、ふと、むかしあった「ある事件」を思い出しました。
それは、20年くらい前の、僕が20代のころ、休日に大阪の梅田でぶらぶらと一人で買い物をしていたときに起こったのです。
梅田のある服屋で、服を選んでいたら、若い可愛らしい女性から、いきなり声をかけられました。
「こういう服が似合うんじゃない」
という感じで、てっきり店員かと思ったのですが、そうではなく、どこか違う店のメンズ服屋さんで働いている方でした。
そこから、お互いが暇だということで、近くのカフェでお茶でもすることになりました。ナンパなどもしたことがない僕にとっては、当時、知らない女性とカフェに行くのは初めての経験でした。
初対面にも関わらず、なぜか話しも盛り上がって、3時間くらいずっとカフェで話をしていました。
帰り際に、とりあえず連絡先を交換してから別れました。もう、二度と連絡はないと思っていたのですが、数日後に、「また、カフェで話でもしませんか?」という連絡がきました。
また梅田のカフェで会うことになりました。
当時は、映画がとても好きだったので、それの話をしていて、その流れから、次回は一緒に映画を見ることになったのです。
そのとき梅田にあるピカデリーという映画館に行きました。今はもう無くなっている映画館ですが。
となりで彼女と一緒に映画を見ていると、「これってデートかな」と考えると、ちょっとドキドキしてしまいました。
その後も、何度か、カフェで会うことになり、あるとき、その女性から、
「わたしが働いているメンズ服の展示会にこない?」
という話になりました。
どうも、近くの場所で、服の展示会を行っているとのこと。
「行きますよ」と返事をしました。
彼女の職場へ行くと考えると、これまたドキドキとしてきました。
梅田駅から、2駅くらい離れた場所にあるので、「じゃあ、今から行きましょう」ということになり、一緒にそこへ行きました。
そうして、着いたところは、えらく古びたビルでした。
(こんなところで働いているのかな?)
もっとオシャレな場所を想定していたので、ちょっと意外でした。
その古びたビルの最上階ということで、一緒にエレベータにのり、展示会場へと向かいました。
最上階を貸し切って、服の展示をしていたのですが、ほとんど客もおらず殺風景で、不思議な感じがしました。
そこで売っていたのは、真夏の8月だったのにも関わらず、なぜか厚着のジャンパーでした。
たぶん、その展示会には100着くらいのジャンパーがあったと思うのですが、彼女から、
「どの服がいい?」
としきりに聞いてくるので、いろいろと眺めながら、
「これがいいかな」
そうして、カガミの前でそのジャンパーを試着したところ、
「まーくん(僕のそのときのニックネーム)とっても似合うよ」
そう言ってくれたので、「これがいいかな」と思って、
ふと値札を見ると、
「1万2千円かな」、と思っていて見ていると、でも、ちょっと桁が違うなと思い、
「え、まさか12万円」と不安になり、さらに値札を見返すと、
なんと、そのジャンパーの金額は、
「120万円でした」
血の気が引いたのを今でも鮮明に覚えています。
何かのジョークかなと思っていたら、彼女の目はいっさい笑っていなくて、とうとう、そこで全てを一瞬にして悟ってしまいました。
これまでのデートは、このジャンパーを売るためにあったことだろうかと。
まあ、ちょっと怪しいなと疑っていたのですが、幾度かデートらしきことを繰り返していくと、もしかすると彼女と付き合えるのではと思い始めていました。が、それは幻想であったことを知らされてしまったのです。
付き合うどころか、いいカモにされていました。
さすがに、120万円のジャンパーを買えるはずもなく、その場から、逃げ出したい想いでいっぱいでしたが、もちろん、この場所から出してくれはしない。
すんなり買うことなど店側も想定していない。
これからどうなるのだろうかと怯えていたら、そこに、40代くらいの紺のスーツを着ていたスレンダーで美人な女性がどこからともなく現れてきました。
僕はてっきり、男性が現れると思っていたのですが、しかしながら、そこにいたのは女性でした。
ただ、その方からは、かなりの威圧感をありましたし、外見は何か悪魔的な顔立ちとなっていました。
何か、悪いことをしていると、外見も変化していくのかなと考えてしまいました。ふと、あの可愛い彼女も、いつかこういう顔立ちになっていくのかと思うと、ちょっと背筋がゾクッとしてしまいました。
それから、奥にある別室に連れて行かれ、その部屋はとても狭く、その中には机と椅子だけした。
「どうぞ、お座りください」
そう言われて、奥にあった椅子に座りました。
その女性は入り口の手前の椅子に座り、そこから、とにかく
「このジャンパーを買え」
そう言われ続けました。
僕は、泣きそうになりながら、
「そんな120万円もお金がありません」
そう言い続けました。
しばらく同じような言い合いが続き、そこで、提案してきたのが、
「じゃあ、月々2万円の60回払いでどう?」
と、5年間ローンを勧めてくるのですが、
「そんなお金もありません」
と、ひたすら言い続けました。
正直、この場から開放されるのなら、その条件を飲んだほうがいいのかなと思ったのですが、今、返事をして5年間も後悔するのはつらいなと思い、ひたすら、断り続けました。
そのやり取りは、数時間は続きました。たぶん、5時間ほど。
僕が払う意思がないことが伝わり、ようやく開放してくれました。
そうして、ここに連れてきてくれた彼女がエレベータまで送ってくれることになったのですが、無言でお互いが歩く中で、これまでの思い出がいろいろと振り返ってきました。
「じゃあ、またね」
と普通に挨拶をしてエレベータに乗り別れましたが、言うまでもなく、彼女とは二度と会うことはありませんした。
その古びたビルから、どうやって帰ったのか、まったく記憶がありませんした。
まあ、ある意味、すごいショックでしたね。
それからしばらくは、あまりものショックで立ち直ることができませんでした。
でも、それも、今となれば、とってもいい思い出になっていますね。
あの、つらい失恋をしたお客さんも、いつか、そのことが良き思い出になってほしいと願って、むかしの、ある事件のことを書いてみました。
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