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日めくりカレンダーの思い出

 僕が20代のときに働いていた会社で、大隅さんって40歳くらいの先輩がいた。

 その人は、仕事がすごくできるし、さらには男前だった。大隅さんが20代のときに、あまりにイケメンだったので、会社に追いかけてきた女性もいたほどだった。

 

 優秀な人には間違いなかったけれど、どちらかといえば、経営者には嫌われていた。

 

 大隅さんは設計部門にいて、主にキャドのソフトを使って図面を書いていた。素晴らしい製図を書いていたけれど、しょっちゅう仕事中に会社のパソコンで株の取引を行っていたようだった。

 堂々とそんなことをやっていたから、とうとう社長の息子にばれて、その彼が激怒し、

「大隅をクビにしてほしい」

 そう言い出した。

 

 社長もその程度のことでさすがにクビになどできるはずもなく、「大隅を辞めさせろ!」とごね続ける息子に対して、

 

「お前、クビにするということがどういうことか分かっているのか? 社員の家族のことも考えろ!」

 

 と渇をいれたようで、息子は馬鹿だったけれど社長は普通の感性をもっていたように僕は思えた。

 

 でも、さすがに何もしないということもできず、大隅さんは設計部門から製造部門に移ることとなった。

 

 僕は正直、大隅さんは一回り以上歳の離れている馬鹿息子にあれだけ罵倒されたのだから、この会社を辞めるのかなって思っていたけれど、すんなりと部署の移動を受け入れていた。

 

 もともと起用な人でもあったので、製造部門でもその才能をいかしていた。どこにいってもできる人はできる。

 

 年末のあるときに取引先からさまざまなカレンダーをいただいた。それをほしければ社員がもらってもよかった。そこで大隅さんが選んだカレンダーが日めくりカレンダーだった。

 それを見たほかの社員が、

「大隅さん、日めくりカレンダーは毎日めくるの面倒でしょう?」

「1月10日くらいでもうカレンダーをめくるのやめるんじゃない?」

 

 そう、みんな口をそろえていっていた。

 

 そこで考えた大隅さんは、その日めくりカレンダーで15時からの休息時間に、なんと紙飛行機を折り始めたのだった。40歳にもなるおっさんがせっせと紙飛行を折り、さらには作成した飛行機を飛ばして遊んでいたのだった。

 

 はじめのころは普通の紙飛行機だったけれども、毎日作っていると段々、オリジナリティあふれた飛行機を折り始めた。

 

 その会社は土日が休みだったので、休み明けには複数の飛行機を作っては飛ばして遊んでいた。

 結局、大隅先輩はこの紙飛行機の製作を飽きることがなく、とうとう1年間、紙飛行機を作り続けた。

 

 遊び心というのは大切なんだと、僕は大隅先輩から教わったような気がした。

また、昨年と同様に同じ業者から日めくりカレンダーをいただいたけれど、さすがに大隅さんがそのカレンダーを受け取ることはなかった。

 

 大隅さんは多分50代の後半となっている。いまだに何か馬鹿なことをやっているように思えるし、そうであってほしい。

 

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