17Mar
20代後半のときに、何か今までの自分とは違うことを行いたくなって、中型バイクの免許を取得しようとした。
そうして仕事が終わってから教習所へ通う日々が続いた。
それまでは会社と家との往復だっただけに、何か新鮮な感じがした。
バイク免許の実技試験のときはめちゃくちゃ緊張した。それでも慌てず課題をこなして、ギリギリの70点で合格した。たぶん、教官が下駄をはかせてくれたんだと思う。
さっそく中古のバイクを買った。250ccでスズキのボルティというバイクだった。
初めてそのバイクを乗ったときは、身震いがするほど感動した。思い切って挑戦してよかったと。しばらく車には乗らずにどこに行くのもそのバイクで行った。
夏になると、ひとりツーリングへ出かけた。テントやシュラフ、そのほか小さなガスバーナーも買った。引きこもりがちだったのに、いつの間にか、アウトドアが好きになっていた。
当時は大阪に住んでいて、京都や奈良、和歌山にも行った。
ふと、日本ではほとんど見られない「泣き砂」がある浜辺へ行きたくなり、週末にバイクでそこへ行った。
足で砂をこすると「キュ、キュ」と本当に音がした。この泣き砂というのは、かなり海がきれいでないと音がでないようで日本でも珍しい浜辺のようだった。
そうして夜はその海周辺にテントを張って、お湯を沸かしてラーメンを食べたりコーヒーを飲んだりした。
あるとき、大阪から愛媛へバイクで帰省した。
瀬戸大橋を渡らずに、しまなみ大橋から帰ろうと考えた。
高速道路を一切通らず、広島あたりの山道を走っていた時に、ゆるい右カーブだったけれど、そこらに砂利があってそれですべってこけてしまった。
一瞬、何が起こったのか分からず、ようやく落ち着いて状況を確認すると、なんとバイクが谷に落ちてしまっていたのだった。
5メートルくらい落ちていた。自分ひとりではバイクを持ち上げることは不可能。助けを呼びたいと思っても、ほとんど車が通ることがないような山道だった。
さらには、当時、電波状況があまりよくなくて、携帯電話が通じない箇所だった。
もう、どうすることも僕にはできなかった。
20分くらい経ったときに、一台の車が通り過ぎた。どうやら僕に気づいたらしく、すぐ近くに停車して、
「おーい、どうしたんや」
そういって声をかけてくれた。年配のおじさんだった。そのとき、どれだけ嬉しかったことか。
そのおじさんと一緒にバイクを持ち上げようとしたけれども、大人二人でもちょっとバイクが重すぎて無理だった。
しばらくすると、また車が一台通り過ぎて、また近くへ停車して、僕らのところまで走って、
「いったいどうしたんですか?」
今度は、僕と同い年くらいの20代後半の男性だった。
そうして、3人でやることによって、谷に落ちたバイクを引き上げることができた。
バイクを持ち上げるとミラーが折れていた。
そうして、おそるおそるエンジンをかけると、問題なくかけることができた。
そのふたりの男性は、「良かった、良かった」と、真っ黒に衣服が汚れたにも関わらず、僕以上によろこんでくれていた。
「それじゃあ、これで」
その一言だけでお別れとなった。名前も聞く暇も無かった。
その二人を見送った後、安堵したのと、周りに誰もいなかったので、しばらく立ち上がれないくらい泣き崩れてしまった。その人たちの優しさにどうしようもなく感動してあまりにも嬉しくて。
20代の数少ない、僕の中の珠玉の思い出。
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